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連載

をんな千一夜 第58話

芋侍が惚れた江戸の女
石井 妙子

2022年2月号

《安藤 照》
 
 幕末維新を描く物語は戦国時代と並んで、小説、映画、テレビドラマで非常に題材として好まれる。世の男性にとって維新の元勲は常にヒーローである。
 彼らの多くは西国の、身分のそう高くない武士たちであった。ゆえに彼らは京都で美妓を見て心奪われ、維新後、東京と名を変えた江戸にやってくると、ここでもまた紅灯の巷に入り浸った。
 日本橋や柳橋といった一流どころは当初、徳川びいきで彼らには冷たく「芋侍」と露骨に見下す。
 彼らもまた気位の高い江戸の芸者衆を相手にするよりも品川の遊郭や新興の花柳界を好んだ。
 芸者「お鯉」が一八九三(明治二十六)年六月に雛妓になった時、新橋花柳界はまだ二流どころだった。しかし、日清戦争を境として隆盛を極め、お鯉の名も轟くことになる。彼女の生涯は、そのまま明治の政界裏面史である。
 本名は照。四谷見附に十二代続く漆問屋「松屋」に生まれた生粋の江戸っ子だったが、生家は親の代で没落。養女にもらわれ芸事を仕込まれると、数え十四歳で新橋から、「おこ・・・