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WORLD

中国「食料自給戦略」の衝撃

米中対立で世界に波及する難題

2022年3月号

 世界最大の農産物輸入国である中国が、自給率引き上げを最優先の国家戦略に位置づけ始めた。貿易摩擦緩和のための米国からの輸入拡大から国内農業の強化に転じる。輸入依存度の高い大豆の生産を二〇二五年までに二〇年比で一七・九%増やすほか、トウモロコシ、食肉も増産し、「米国の農産物禁輸に備える」(政府系シンクタンク幹部)。増産は農地利用の高度化やこれまで禁止していた遺伝子組み換え作物(GMO)栽培の解禁で達成する。併せてロシア、カザフスタンから農産物を鉄道輸送で輸入するルートを確立、米中冷戦の長期化に備える。
 中国は現在の第十四次の前の第十三次五カ年計画(一六~二〇年)では、コメ、小麦の主食穀物は自給体制を堅持する一方、「大豆、トウモロコシ、食肉は輸入を適切に利用し、バランスのとれた農業発展を目指す」(農業農村部)方針だった。人口増加と食事の西欧化で、食用油や飼料を大量消費する食肉需要が伸び、中国の農地面積では自給自足が困難になっていたためだ。さらに一九七〇年代以降、食料増産のため、傾斜地や沼沢、草原などの農地化が進められ、土壌流出、砂漠化など環境悪化が深刻になったという事情もある。・・・