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連載

本に遇う 第271話

「邪は正には勝てぬ」
河谷 史夫

2022年7月号

 プーチンはいつまで続ける気だろう。「戦場で勝つ」と明言するゼレンスキーが白旗を上げるとは思えない。前世紀の中国での日本、さらにベトナムでのアメリカを想起するまでもなく、ロシアにとってウクライナの泥沼化は不可避である。他国に押し入り蛮行を働くことの理非は明らかで、友なら「もうよせ」と止めてやるところだ。そう言や薄気味悪く「ウラジーミル」などと親しげに呼んでいた元首相はどうしているか知らん。
 戦争を始めるのは簡単だが、やめるのは難しい。だいいち戦術目標がはっきりしない。当初キーウへ迫ろうとしたかに見えたが、兵を東部に集中、かと思えばキーウを再砲撃と定まらないのは、プーチンの揺れを思わせる。
 戦端を開くとき、総司令官の心中が定まらず、曖昧なままでは士気に影響するだろう。日本が敗れた対米戦争の始まりがそうであった。真珠湾奇襲を立案した聯合艦隊司令長官山本五十六による攻撃部隊への命令には「但し書き」があった。そのことが阿川弘之の『山本五十六』に出て来る。
「但し、目下ワシントンで行われている日米交渉が成立した場合は、出動部隊に引揚を命ずるから、その命令を受けた・・・