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連載

皇室の風 第169話

天皇家の執事Ⅶ
岩井 克己

2022年9月号

 渡邉:お仕えして強く印象に残るエピソードを二つお話ししたい。
 ひとつは天皇(現上皇)陛下にかかわることで、平成十六(二〇〇四)年に植樹祭で宮崎県に行かれた時のこと。あそこに西都原という古墳群がありますね。そこで昼食をとられ、宮内庁の陵墓参考地があるので表敬を兼ねて立ち寄られた。見晴らしのよい場所で県知事がご説明をしたのです。
 周りはみんな小さな古墳で、遠くに小さな小屋があった。「あそこに小屋が見えますが、あの地下にも古墳があります。大変珍しいものですが、あれは四十年余り前に地元の人が農作業中に地面が陥没して、それで見つかったものです」と説明した。
 すると陛下は「その人は大丈夫でしたか。怪我しませんでしたか」とお尋ねになった。私らは、そういう質問は全く予期していなかった。みんな古墳のことばかり関心を持って聞いているしね。「ここで大洪水がありました」という話ならば「怪我人は?」というのもわかりますが。どこの誰とも知れない人ではあるが、まず「その人は怪我しなかったか」と。いかにも陛下だなと思った。
 もうひとつは、皇后(現上皇后)陛下です。平成・・・

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