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連載

大往生考 第40話

抗がん剤を拒んだ理由
佐野 海那斗

2023年4月号

 進行がんを宣告されたら、どのように余命を過ごすべきか、考えさせられる経験をした。
 患者は七十代後半の男性だった。元証券会社の社員で、定年後は妻と二人で都内のマンションに住んでいた。妻は高血圧、患者は肥満・糖尿病の治療のため、私の外来に通っていた。
 患者は会社員時代に鍛えられたのだろうか、社交的で誰とでも良好な関係を構築できた。そして、美食家だった。定年後に運動不足解消のために山登りを始めたが、その山仲間と折に触れて食べ歩くようになった。
 これでは生活習慣病が改善するはずがない、私は、外来のたびに血糖値を伝え、運動とダイエットを指導した。ただ、その程度では美食を断てるはずもない。妻は「検査結果を知ると、数日は節制するが、すぐに元に戻る」と言う。自宅で妻が小言を言う姿が目に浮かんだ。しっかり者の妻が、甘えん坊の夫を支えている感じで、微笑ましい夫婦だった。
 そんな夫婦に試練が訪れた。きっかけは去年の夏、患者が発熱したことだ。コロナ第七波の真っ最中で、発熱患者は診察前にコロナ検査を受けなければならない。幸い、抗原検査は陰性で、心配していたコロナ・・・

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