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政治

岸田がはまる 「日朝交渉」の罠

拉致「最終解決」を焦る危うさ

2023年10月号

 冒険家やアスリートが「前人未踏」を目指すように、権力を握った者も「先人にできなかったこと」への誘惑に駆られ、リスクも正否も二の次で成果を急ぐ。総理大臣の岸田文雄が今、最長政権を率いた安倍晋三も果たせなかった北朝鮮による日本人拉致問題の「最終解決」に前のめりになっているのは、その典型に見える。
 九月十三日の第二次岸田内閣再改造で焦点の一つだったのは、内閣官房長官・松野博一の去就だ。交代説もくすぶる中、岸田が続投を求めた理由は、自民党内の派閥間のバランスや、松野が所属する清和政策研究会(安倍派)の事情を考慮しただけではない。拉致問題の担当閣僚が松野であったことも、重要な判断材料だった。拉致問題に近々進展があると岸田が考えている証左とも言える。
 岸田の心情は、五月二十七日に東京・平河町の砂防会館別館で開催された拉致被害者の家族会や支援組織による定期会合「国民大集会」での発言に端的に表れていた。それまでも金正恩・朝鮮労働党総書記と前提条件なしで話し合う用意があると繰り返してきたものの、相手の反応がない。そこで、拉致問題担当の松野も同席した大集会で、「私直轄のハイレベル・・・

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