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社会・文化

北海道「野生ラッコ」の物語

「海のアイヌ」と重なる哀史

2023年11月号

 日本国内の飼育ラッコがわずか三頭となり、愛らしい姿を近くで見ることがいずれ難しくなるだろうと言われている。
 ピーク時には百二十頭あまりも飼育・展示されていたが、ブームが去り、主な生息地の米国やロシアで捕獲や輸出が禁じられて、繁殖もままならないという。国際自然保護連合でも絶滅危惧種に指定されている。
 一方、生息地の南限に当たる北海道東部では、一九八〇年代から根室市の納沙布岬で野生個体の目撃が復活し、最近は釧路に近い浜中町霧多布岬で繁殖する親子ラッコの姿が確認されている。
 根室半島付近は海抜五十メートル弱の平らな台地が続き、それがいきなり海に切れ落ちている地形だ。根室沖に浮かぶユルリ、モユルリの両島は、ラッコやアザラシが繁殖する野生豊かな無人島だ。
 海中の岩場はコンブがびっしりと生える好漁場で、ウニやカニなどの海産物も多い。ラッコはそうした甲殻類を主食とし、コンブに体を巻き付けて眠る。
 冷たい千島海流はミネラルやプランクトンを多量に含み、初夏ともなると爆発的な生命の繁殖をもたらす。透明だが養分の少ない南の海に比べ、北太平洋は小さ・・・

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