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社会・文化

勤務医「定年後」の お寒い実情

狭き再就職の門と「医療事故リスク」

2023年12月号

 高齢化が進む我が国では、医師の高齢化も加速している。これにより二つの問題が浮上してきた。まず定年退職した勤務医の再就職難である。医師は高齢になっても引く手あまたで恵まれた生活を送っていると思われがちだが、それは過去の話だ。関連してスキルの問題がある。高齢医師は日進月歩の医学についていけないことがあるのだ。何らかの手を打たないと、医療事故が起きかねない状況である。すでに事故寸前といったケースが見られる。
 勤務医は国公立病院の場合、公務員に準じ六十歳で定年退職し、最大五年間再雇用されるか、六十五歳で定年退職するかのいずれかだ。民間病院も、六十~六十五歳の定年制を設けているところが多い。実は、勤務医は現役時代の年収が世間で思われているほど高くない。退職金や年金も多くはない。
 厚生労働省の令和三(二〇二一)年医療経済実態調査によれば、病床数一千床以上の病院(大学病院や基幹病院)に勤務する五十五〜五十九歳の医師の平均年収は男性一千五百五万円、女性八百四十二万円だ。この年代は、部長など病院の幹部職で社会的地位が高い分、日々の支出も多く、「貯蓄をする余裕がない」(元勤務医)・・・