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社会・文化

「新薬がない国」日本の近未来

創薬敗戦「ドラッグロス」の悲劇

2024年2月号

 海外の製薬企業が開発した新薬が日本に入ってこなくなる「ドラッグ・ロス」が問題になっている。世界で急激に台頭したバイオベンチャーが、海外で十分に稼いだ後、非関税障壁が高い日本市場に参入しようとしないからだ。海外の薬の承認が遅れる「ドラッグ・ラグ」より深刻である。日本でもバイオベンチャー育成が急務なのに、日本政府は対応できていない。このままでは日本での創薬体制が崩れてしまう危険性があるのだ。
 昨年12月、厚生労働省は製薬企業に対して、国際共同臨床治験を始める前に求めていた第Ⅰ相臨床試験を原則的に不要とすることを決めた。外資系製薬企業が海外で開発中の医薬品を、国内に早期に導入しやすくするためだ。安全性を検証する第Ⅰ相臨床試験を免除することは薬害を増やしかねないが、深刻なドラッグ・ラグを改善するための苦肉の策だった。しかし、事態は改善していない。そこにドラッグ・ロスが被さる。
 東京大学薬学部の記伊賀南子氏らの研究によれば、2008〜20年に日本あるいは米国で承認された763の医薬品のうち、米国では86%が承認されていたのに、日本では61%だった。その差25%は、199・・・

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