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政治

岸田「夏の訪朝」は実現するか

政権浮揚「禁断の一手」の行方

2024年3月号

 年明けから、岸田官邸と外務省は、国交なき隣国から発せられた2本のメッセージに翻弄され続けた。1月初旬の金正恩朝鮮労働党総書記の能登半島地震見舞いと、2月15日に公表された金与正党副部長の談話である。林芳正官房長官が電報には謝意を示し、談話については「留意する」と述べたが、金正恩との首脳会談を呼びかけていた当の岸田文雄首相は対応を明言していない。
 金正恩は岸田に米大統領と同じ「閣下」の敬称を初めて使い、金与正は「現状を大胆に変える」とした岸田の衆院予算委員会の答弁を引用した。連携を強める日米韓の一角を切り崩し、自分たちへの圧力を弱める思惑があるのは論をまたないが、日本の首脳に一定の敬意を示し、平壌訪問に触れること自体、近年例がない。「良くも悪くも」という言い方が適切かは別にして、日本側の想定をはるかに上回る破格の打ち返しである。

「金与正談話」の真意

 ともあれ、ボールは岸田本人の手に渡った。
 電報については、外交儀礼上、返すのが自然で、公表しないまでも、何らかの形で返信するのが通常だ・・・