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社会・文化

ヴェネツィア「都市景観画」の魅力

「時代の記録」が持つ普遍的価値

2024年5月号

オーバーツーリズムに頭を悩ませているヴェネツィア市ではついに4月から「入島税」が導入された。もともと観光客の多い街ではあったにせよ、島であるヴェネツィアでは車も自転車も走らず、人と船が交通手段である。むろん超大型スーパーもない。一歩狭い路地に入ると、足音が建物の壁に響く静けさが街を包んでいた。しかし今や住民よりも観光客が超過し、住民向けの小売り店は減り続け、同時に地盤沈下や高潮、ゴミなどの問題も抱え、都市機能の維持が大きな課題となっている。しかもヴェネツィアは美しい都市景観だけではなく、建物内部には膨大な量の貴重な文化遺産を抱えている。その保存対策も湿気や観光客との戦いとなっている。市当局やイタリア政府の危機感は相当なものである。
ヴェネツィアは古代ローマ時代以来、海の干潟に住む不思議なウェネティ人の街として知られてきた。9世紀以降一貫して統領(ドージェ)を筆頭とする共和政を維持し、独自の文化伝統を形成し、十五世紀以降数多くの絵画の巨匠を輩出した。宗教面でもローマ・カトリック教会とは一線を画し、ヴェネツィア独自の典礼様式を保ってきた。有名なサン・マルコ大聖堂が総大司教座聖堂と・・・

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