テイレシアスの食卓 vol.
「フランスへ、ようこそ」
河井 健司
2025年9月号
都会の雑踏から離れた目立たない場所の一角、わずか10坪そこそこの店舗に、フランス料理研究室の看板をひっそりと掲げ、かれこれ4年が過ぎた。そうはいっても開業当初と変わらず近隣の住民から、ここは料理教室ですか、と質問を受けることも珍しくない。そんなときは思わず、はい、そのとおりです、と答えてしまう。ごく一般的なフレンチレストランです、お気軽にお越しください、と軽々しく返答しづらい理由はいくつかある。料金設定もさることながら、一人で切り盛りしている都合上、営業時間外も含めて電話対応は行っておらず、休業日などの店舗情報は、ホームページを見てもらうしかない。また、万が一にも間違いが起こらないように、席の予約は内容の履歴が残るインターネット経由のみとし、同一客の複数予約は、占有防止の観点からお断りしている。これだけルールが多い弊店に初めて申込みをする人は、さぞ不親切と感じることだろう。それでも、周辺にお住まいの人たちを含めて新規のお客様が、結婚記念日など特別な日のお祝いで来店してくださるのだから有り難い。
たとえるなら注文の多い料理店ともいえる自店舗の、客席から見える厨房の奥に据え付・・・
たとえるなら注文の多い料理店ともいえる自店舗の、客席から見える厨房の奥に据え付・・・