三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

皇室の風26

副葬品から浮かぶ「人間天皇」

2010年10月号

 横綱白鵬が九月十八日、昭和以後歴代二位の元横綱千代の富士の連勝記録五十三を二十二年ぶりに抜いた。思い出したのは、昭和天皇の最後の闘病の日々である。
 昭和天皇の相撲好きはよく知られるが、闘病中も不思議と節目ごとに相撲の話題が絡んだ。
 昭和の終わりの始まりとなったのは、昭和六十二年九月十八日、九月場所への行幸取りやめの発表だった。同二十二日午前十一時から宮内庁病院で腸の通過障害をバイパスする手術。同夕、手術室から戻った天皇は真っ先に「相撲のテレビを見てよいか?」と側近に尋ねた。
 一年後の昭和六十三年九月十九日深夜、天皇は吹上御所で就寝中に激しく吐血し、百十一日間に及ぶ最後の闘病が始まった。この時も十八日の九月場所行幸の中止発表の直後だった。千代の富士の連勝が続く同二十五日の千秋楽、病床の天皇は横綱土俵入り以後の全取組をテレビ観戦。結びで千代の富士が勝つと、側近に「全勝だね」と語りかけた。
 昭和六十三年五月場所七日目から始まった千代の富士の連勝記録が途切れたのは十一月場所千秋楽の同月二十七日、横綱大乃国戦。この時には天皇は重篤に陥り意識を失い・・・