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連載

本に遇う 連載130

薄幸の天才への鎮魂歌
河谷史夫

2010年10月号

 齋藤愼爾に勧められたこともあって「本に遇う」を本にした。二巻本の?ฺで「酒と本があれば、人生何とかやっていける」と外題をつけた。彩流社刊。二千二百円+税。あまり売れないと暮れに出す予定の?ฺが霧消するかも知れない。
 齋藤愼爾は、わが畏敬する数少ない先人の一人である。
 山形大学在学中に設立した深夜叢書社の社主として、一人で四百冊以上の本を作ってきた出版人にして俳人、稀に見る読書家、また音楽偏愛家、そしてムック編集者。近年、伝記の分野に分け入り、先に瀬戸内寂聴の評伝『寂聴伝――良夜玲瓏』を書いた。当人から「これほど心のこもった批評鑑賞を得たことは、わが生涯になかった」という感謝の言葉を得ている。
 六〇年安保と七〇年安保をくぐった世代は、何らかの意味で谷川雁と吉本隆明の影響を受けているが、たいがいは二派に分かれる。それが齋藤は、吉本隆明と極めて親しく、谷川雁にも通じたという不思議な存在なのである。
 山形県酒田の北西三十九キロに飛島という孤島がある。この島で齋藤は寺山修司のようにひばりを「伴奏歌」として人生を歩き始めた。少年は、秋祭りにやって来・・・