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連載

皇室の風27

皇室と仏教のつながり
岩井克己

2010年11月号

 天皇、皇后は十月七日から十日まで奈良県を訪れた。奈良市で「平城遷都千三百年記念祝典」に出席するためだったが、四日間で仏教寺院を六カ寺も回ったのが印象的だった。
 初日、東大寺大仏殿で盧舎那大仏に拝礼。光明皇后ゆかりの尼門跡寺院で総国分尼寺として創建された法華寺では国宝の十一面観音立像に拝礼し、光明皇后が衆生の病を癒やすため造らせた蒸し風呂「浴室」の復元も視察した。唐招提寺では千手観音立像や鑑真和上坐像に、薬師寺では薬師三尊像などに対面。最終日の十日も近鉄電車で宇陀市の室生寺、さらに桜井市の長谷寺にまで足を延ばした。
 遷都記念祝典や元明、光仁天皇陵の参拝などを除くと、ほぼこれ寺院めぐりといって過言ではない日程だった。
 昭和の時代から天皇の地方旅行ではこれまでも時折、寺社訪問が盛り込まれることはあった。しかし、仏教寺院訪問はどこか遠慮がちに織り込まれるといった印象だった。平成になってからは門跡寺院や由緒寺などへの積極的訪問が目立ち、加えて国際色豊かな天平文化が花開いた平城京は、鎮護国家と国内統治のために皇室が仏教色に染まった土地柄ではある。それにしても今・・・