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社会・文化

「雪」の恩恵を享受する日本

地球の偶然が生んだ「白い恵み」

2010年12月号

 天候が安定しない初冬。久しぶりに青空が広がると、神々しいほどの白い稜線が天と地をくっきりと区切った。収穫の終わった水田の向こうに、やがて来る白い季節が待ち構えている。
 北海道の中央部に連なる大雪・十勝連峰には、ひときわ白い峰が二つある。旭岳と十勝岳。ともに今なお噴煙を上げる若い火の山ゆえに、山肌は岩礫に覆われ、樹木がほとんど生えていない。夏は登山者でにぎわったなめらかな山の斜面が、今はすっかり白い雪氷で覆われている。
 滑り止めのシールをつけたスキーやカンジキをはいて登ると、広い雪面を自由自在に、好きなコースを歩くことができる。登山道のしがらみを離れ、心のままに歩く自由を雪が与えてくれる。前に道はなく、振り返れば自分の足跡だけが残る。
 ところどころの岩には、「エビのしっぽ」と呼ばれる氷の小さな塊がびっしりと突きだしている。水平になびく氷塊は、風下に伸びるのかと思ったら、たたきつける雪氷によって、風上方向に少しずつ積み重なって育つのだという。ひとたび地吹雪が起きれば、一瞬のうちに青空も足跡もかき消される。強風が支配する高山の白い世界には、人を拒む・・・