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連載

本に遇う 連載133

「むかえびと」比佐子よ
河谷史夫

2011年1月号

 この世は縁である。まん丸であれ、いびつであれ、人はそれぞれに円を描いて生きているが、円と円とが交わったり接したりして、そこに縁が生じる。時代を問わない。世紀を異にしていようと、縁ある人とは友になれる。隣家に住んでいようと、縁なき衆生とは永遠に相知ることはない。
 縁とは運命の別名である。
 黒岩比佐子には十年ほど前に会った。むのたけじさんから「黒岩なる人が訪ねて行くからよろしく」と電話があった。わたしが新聞へ行くことにしたきっかけの一つに、むのさんの『たいまつ十六年』を読んだという縁がある。
 彼女は出したばかりという伝書鳩を主題にした本を抱えて現れた。資料を集められるだけ集め、選び、考え、述べるという方法は最初から確立されていて、著書は面白い出来だったから書評欄に書いた。
 もの書きとして自分の世界を守っていくのは、けっこう大変だと言った。それから、むのさんへの敬愛の念を熱っぽく語った。
 むのさんは記者として戦争協力の記事を書いた責任を取ると言って敗戦の日に朝日新聞を辞め、郷里に近い横手へ引っ込んだ。週刊新聞「たいまつ」を出し、戦・・・