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連載

続・不養生のすすめ2 

「粗食」は健康に良いのか?
柴田 博

2011年2月号

 美食は健康に良くない、粗食こそが長生きの秘訣―。日本人には、こうした「粗食信仰」の持ち主が多い。質素な食事に耐えていれば、長命でいられる。なるほどもっともな話のようにも聞こえるが、はたしてこれは本当なのか。
 そもそも粗食信仰は、日本人の間でいつどうやって根付いたのだろうか。これには諸説ある。
 仏教の伝来が起源だ、と主張する人は多い。しかし、肉や乳製品を避けることをもって粗食とするならば、この説には矛盾がある。なぜなら、仏教には「動物性の食品を摂るな」と明記した経典はないからだ。釈迦もミルクを食したと伝わる。仏教を東に広めた三蔵法師も、シルクロードを旅する過程でそのような思想を残していない。ご承知の通り、シルクロードで羊の肉や乳の世話にならなかったら、他にはごくごく限られた食べ物しかない。
 有力なのは、仏教が中国に入って道教と結びついたことによる、とする説だ。仏教は朝鮮半島に入った頃から「殺生禁止」の思想を残してくる。
 仏教伝来以降の日本は、明治維新に至るまで、動物性たんぱく質欠乏の時代が延々と続くことになる。
 奈良時代には、・・・