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連載

不運の名選手たち14

瀬古利彦(マラソン選手)「モスクワ」と愛弟子たちの死 
中村計

2011年2月号

 世界的な実績と知名度を持ちながら、これほどまでその重さを感じさせない人物もそうはいまい。
 話に入る前、改めて今回の取材テーマを恐縮しつつ伝えると、稀代の名マラソンランナー、瀬古利彦は実にあっけらかんと言った。
「いいの、いいの。ほんとのことだから。俺、不運だもの。何から話していいかわからないぐらい」
 取材場所は、千駄ヶ谷の行きつけの喫茶店だった。瀬古のオーダーは、迷わず昆布茶。現在の体重は七十二キロと現役時代より十キロちょっと太くなった。だが、マラソン選手の引退後の体重の増え方としては、この程度なら普通だ。
 瀬古が発する空気感は、ほんの数分で書き上げた水彩画のように軽やかだ。ただ、目を凝らすと、雑巾で叩き、水分を吸い取った跡がそこかしこにある。そのため、ことさら乾いた印象を与えるのだ。
 恩師の中村清との今生の別れを回想するときも、こんな調子だ。
「また、すごいことやるなー、って。ええ、思いましたよ。死ぬときまでさ。時期も時期だったしね」
 中村とは早大時代から数えて十年間、苦楽をともにした。二人の常軌を逸し・・・