三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

追想 バテレンの世紀 連載60

活版印刷の伝来
渡辺 京二

2011年3月号

 オルガンティーノは京都所司代の前田玄以に働きかけた。玄以は秀吉に対して、「殿下がインド副王使節をニセモノとお疑いなら、真相を知るのは容易でありましょう。先日通訳を勤めた修道士が在京しておりますから、呼び出して尋問なさるがよろしい」と説き、かくしてロドリゲス・ツズの出番となったのである。
 ロドリゲスはヴァリニャーノが正真正銘の副王使節であることを、巧みに説いてついに秀吉を満足させた。秀吉は「インドでは誰もがキリシタンなのか」と問い、ロドリゲスが「信仰は自由で、なりたい者だけがなる」と答えると、非常に満足した様子で、「日本でもそうあるべきだ。予はバテレンの門弟の諸侯が家臣を無理やりにキリシタンにしたので、バテレン追放に踏み切ったのだ」と言い、さらに小声で「下賤の者がキリシタンになるのは一向差し支えない」とつけ加えた。
 前田玄以はこの好首尾を受けて、国書書き換えにさらに尽力することをロドリゲスに約束したが、その際痛い釘を一本打った。そのように予の世話になりたければ、関白殿の命に逆らって予に恥をかかすことがあってはならぬ、もしそのようなことがあれば、予は汝らの最大の敵・・・