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連載

本に遇う 連載136

一寸先は闇である
河谷史夫

2011年4月号

 一寸先は闇、というのはたしか寝業師といわれた自民党副総裁川島正次郎の名言であった。これは百鬼夜行の政界だけに限らない。未来へ向かっては後ずさりするほかない人間にとって、人生万事何事が起きるかは思慮の外にある。
 みっともない話ながら、二月半ば、雪道で転倒した。
 真後ろに倒れて後頭部をしたたか打ち、首がしなうように前後、というか仰臥した状態なので上下するのを意識した。ぐっとつまったような瞬間を経て、起き上がろうとしてすぐに起きることができない。両腕と掌が痺れて、チリチリチリと痛い。
 整形外科へ行ったら、レントゲンを撮られ、横手のかまくらみたいなMRIに入れられたうえで、「中心性頸髄神経損傷」との診断であった。身内に神経があると初めて実感する。「痺れはすぐには取れません。一カ月から四カ月、完全に消えないこともあります」と医者は事務的だ。「安静にして、外出はしないほうがいいでしょう。パソコンは前傾姿勢がよくない。酒? むろんダメです」。
 ―というので、首輪姿で横たわっているほかない。「予定」をすべてキャンセルした。
 することがない。・・・