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連載

不運の名選手たち16

林 尚克(野球選手)イチローと「明暗」分けた四番打者 
中村計

2011年4月号

 資格は十分あった。
 名門、愛知の東邦高校の「四番・センター」として、三年時は春夏連続で甲子園に導いた。甲子園ではいずれも初戦で敗れたが、春は満塁本塁打を記録している。
 林尚克は屈託なく笑う。
「満塁ホームランを打って負けたの、僕が史上初だったんですよ」
 夏の甲子園を決めたとき、愛知大会で残した個人成績は以下だ。打率四割六分二厘、本塁打四本、打点十、盗塁五。身長百七十六センチ、体重七十三キロと小柄だったが、走攻守三拍子そろった強打者としてプロからも注目を集めた。
 ただ林は当初、高校卒業後は、大学への進学を考えていた。プロはそんなに簡単ではないという思いもあった。ところが夏の甲子園が終わったあと、監督から、オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)がドラフト四位あたりで指名したいと言っているがどうかと聞かれ、気持ちは一気にプロへ傾いた。目の前に突然、舞い降りてきた小さい頃からの夢。考えるよりも先に手が伸びていた。
「十八歳の高校生がそう言われたら、普通、信じちゃいますよね」
 一九九一年十一月二十・・・