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連載

不運の名選手たち18

宮川 実(競馬騎手)隻眼のジョッキー 
中村計

2011年6月号

 その声が、復帰を十九日後に控えていた宮川実の魂を揺さぶった。
「……うぉ、……うぉ、……うぉ、うぉーい!」
 稚児のうめき声のようでもあったが、宮川の耳には、それは福永洋一の心の叫びとして響いた。
 二〇一〇年五月十日。高知競馬場で開催された「第一回福永洋一記念」の表彰式でのことだ。一九七九年に落馬事故に遭い、その後、重度の脳障害を負った高知生まれの天才騎手、福永は、ファンの熱烈な声援に応えるかのように車椅子の上から、喜色満面、そう声を発した。
 自宅のテレビでその光景を目にした宮川は、全身の毛穴が収縮し、気づくと涙が滂沱とあふれていた。
「『いやいや、こんなんじゃ、いかんやろ』って。すごいビビッてたんですけど、洋一さんに背中を押してもらった気がした」
 地元の英雄の声にならない声に感応したのは、宮川が福永と同じ人生の淵を経験していたからでもあった。
 事故が起きたのは、その約一年前、二〇〇九年五月二日に高知競馬場で行われた第一レー・・・