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経済

イオン「ゴリ押し出店」に非難囂々

問題だらけの「輝きのあるまちづくり」

2011年7月号公開

 東京都の西、東久留米市の郊外を歩くと異様な光景に遭遇する。住宅街の狭い歩道のあちこちに赤地の幟がはためいているのだ。東久留米市の南沢地区の有志が自費で作った幟だ。そこにはこう記されている。
「イオン建設反対!」
 この地区にイオンが大型ショッピングセンターの進出を打診したのは六年以上前の二〇〇四年頃のことだ。旧第一勧業銀行が所有していた野球場やテニスコート、プールなどを備えた約五万五千七百平方メートルのグラウンド跡地に、約一千七百台の駐車場を備えた商業施設を作る計画である。

反対派市長への「脅し」


 当時の野崎重弥市長は、根拠を明らかにしないまま、「税収が三億円増える」とこの計画に賛成し、旧第一勧銀から土地を買収した中央不動産の誘いに乗った。
 しかし、この建設予定地域の周囲は閑静な住宅街が広がる。場所も小学校の真横に位置している。そして、アプローチ道は片側一車線の市道二○九号だけで、歩道もろくにない。最寄りの西武線ひばりヶ丘駅や東久留米駅からは、バスと乗用車が一旦停車しないとすれ違うこともできない箇所も多い。
 ご存じの通り、イオンの進出計画は、全国各地で地元との軋轢を生んでいる。主に商店などからの反発だが、東久留米も例外ではない。地元の商店街会長が語る。
「うちはたかだか二十数軒の小さな所帯だが、地元の人たちの需要に応えてきた自負がある」
 実は、商店街の側にある団地の入り口には別の大手スーパー、西友が既にある。これに加えてイオンを誘致する必要があるのかと憤っているのだ。
 そして、東久留米の特徴は、冒頭の様子を見ればわかる通り、地元住民もイオン進出に反対している点だ。他の土地での反対運動は、前述のように客を奪われる商店関係者が多く、若者など地元住民は「便利になる」と賛成するケースも多い。
 東久留米で反対運動を続ける「南沢五丁目地区計画を考える会」のリーダーの一人はその理由をこう説明する。
「今でも通勤、通学の時間帯は渋滞する道路です。そこに二千台近くの駐車場を持つ商業施設ができれば渋滞が起き、事故も増える」
 また、騒音や排ガスの問題、治安悪化も危惧しているという。
「イオンは、地域のくらしに根ざし、地域社会に貢献し続ける企業集団です」
 同社の「基本理念」として掲げている文言だ。地域に貢献するはずの企業が、「地域に問題を持ち込む」と非難を受けているのだ。
 こうした住民たちの「声」は一昨年十二月の東久留米市長選挙に反映された。「イオン誘致の見直し」を公約として立候補した馬場一彦氏が当選したのだ。馬場市長は市議時代から反対運動の先頭に立っていたことから、民主、社民、国民新党だけでなく共産党からの支援も受けていた。
 ところが、この馬場市長がその後態度を百八十度転換してしまう。昨年、六月三日の市議会では、土地所有者や事業者と協議した結果として、「前市長の下での一定の都市計画も進んでいる。また、イオン進出計画を中止することによる時間的、経済的損失は多大で、応じられない」と誘致推進の立場に変わったのだ。
 詰めかけた傍聴人からは「明らかな公約違反ではないか」という悲鳴にも似た声が上がった。これに対して市長は、「私はもともとイオン反対ではない。市民参加で見直すといったはずだ」などと苦しい弁明を繰り返すばかりだった。そして、市長は市の広報紙に「イオン誘致をやめると、損害賠償で市民に迷惑をかけるかもしれない」との脅しともとれる文言を掲載している。
 これに対して反対グループの別の関係者はこう指摘する。
「イオン側と本契約も済んでいない段階で損害賠償も何もない」
 こうした中、馬場市長や市は、地元住民の不安や反発を懐柔するためか、イオン進出に関して「地域貢献に関する検討会」を設置して、市民からの意見書を募集した。しかし集まった三百七十一通の意見書のうち、賛成は四件のみ。残りは見直しや反対意見だった。
「市長豹変の裏にはイオンからの脅しともいえる行為があった」
 こう語るのは前出反対グループ関係者。市長に対してイオン側から「計画を白紙に戻すなら損害賠償も辞さない」という趣旨の内容証明が送付されたのだ。慌てた市長は似たようなケースを調べ、「自治体が敗訴した判例があると知ってパニックになったようだ」(同関係者)という。
 前出リーダーは別の疑問も呈す。
「どうせここにイオンができても、うまくいかないのは目に見えている。すると、イオンは撤退する。その後で、大規模開発をするという話もあります」

推進派さえ戸惑う


 つまり、ここまで市民の反発がありながら、計画をゴリ押しする理由が不明確なのだ。
 こうした点について馬場市長に、筆者から質問状を送ったが、「秘書室で」「都市計画課で」とたらい回しされた揚げ句、最終的に、「コメントできない」との回答だった。
 下の図に示すように、イオンは今後も全国各地でショッピングセンター(もしくはイオンモール)の出店計画を進めている。そして、その多くで地元からの大小様々な反発を受けている。もちろん、中には既に地元商店街が寂れており、反対運動そのものが小規模な場所もある。
 ただ、現在問題となっているのは、千葉県野田市のように抗議の声を無視する形で出店計画を進めたが、「計画自体の一進一退が続いている」(地元商店関係者)ようなケースだ。
 経済状況を見極めているのだろうが、「地域のくらしに根ざす」(前出企業理念)はずの企業が地元の声に耳を傾けず計画を推し進める。その上、「輝きのあるまちづくり」(イオンモール経営理念)を目指すという高邁な理想を掲げながら、そのまちづくりがイオンの都合で延び延びになる。これでは推進派の地元民でさえ戸惑ってしまう。
 前出した東久留米の商店街会長は現在、こう危惧している。
「イオンは儲からなければすぐ撤退すると聞いている」
 実は、本誌五月号で取り上げた、今年春にオープンしたばかりの福岡県大牟田市のショッピングモールでは、四カ月足らずですでに撤退の噂がある。見込んでいた集客の六割も達成できていないことが理由だ。
 強引に計画を推し進めた揚げ句、すぐに撤退するのでは、地元は浮かばれない。
 イオンは、これでどうやって「輝きのあるまち」とやらを作ろうというのか。


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