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連載

Book Reviewing Globe326 

キッシンジャーの「中国論」

2011年7月号

On China Henry Kissinger The Penguin Press HC2011$36.00

 ヘンリー・キッシンジャーの理論、実践両面のライフワークともいうべき「中国論」である。
 キッシンジャーの中国観は「中国とは、国民国家のふりをした文明である」という中国学者、ルシアン・パイの洞察を下敷きにしているかにみえる。
 たとえば、中国の「友好観」について。
「中国にとって友好の表明は、無形のものを互いに育て、それによって長期的な関係構築を求める行為である」
 ウォーターゲート事件で追放された後のニクソンを国賓待遇で招いたり、ロッキードスキャンダルで逮捕された田中角榮をその後も手厚く遇したりするのも、そうした「無形な」関係構築の表れのひとつとみてよい。
 それは、えてして恩を売ることで相手に恩を忘れさせないようにする長期的関係構築の努力に他ならない。
 中国は、他国と「平等」の概念に根ざした国際関係を維持したことはない。
 キッシンジャーは、二〇〇八年の北京オリンピックが「中国に・・・