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連載

皇室の風35

天孫神話を映す即位儀式
岩井克己

2011年7月号

 卓抜した政略・軍略で壬申の乱を勝ち抜いて皇位に就いたカリスマ・天武天皇がその正統性の根拠を確立すべく、壮大な構想力と驚くべき緻密さで着手したのが、記紀神話の編成であり、それと照応する祭儀体系だった。
 明治の帝国憲法時代に制定された旧皇室令「登極令」も、これら古代即位儀式を再現して神権天皇を称揚するもので、大正、昭和の即位儀式の根拠となった。
「登極令」策定にあたった多田好問の『登極令義解』草稿が詳細に記す儀式の解説を読んでみよう。
・《即位礼当日賢所大前の儀》・
 賢所内陣に剣璽案(剣と勾玉を載せる台)を置く。
「御座の側に剣璽の案を安かるるは(略)他の大祭の時の如く、侍従之を捧持して外陣に候するの儀に非らざるなり。(略)皇祖天照大御神の皇孫瓊瓊杵尊に三種の神器(略)を親授し給へる時の如く、天皇直に皇祖より之を受け給へるの状に准擬せられ、且つ神武天皇位に橿原宮に即き給へるの時に於て、天富命が天璽鏡剣を正殿に奉安せし遺意を斟酌せられたるなり」
 また、「真榊に鏡玉及び帛を懸けて之を樹つるは、皇祖、天石屋戸隠れ給へる時に於て、・・・