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連載

続・不養生のすすめ7

放射線と高齢者の避難
柴田 博

2011年7月号

「発がん性」という言葉に対して、日本人は冷静でいられない。古くは肉や魚の焦げが、大きな騒ぎになった。山菜の灰汁だとか、バターの着色料とかも、一時「ブーム」を起こした。騒ぎになると急激に流行るが、それも七十五日。日本人は、忘れ去るのもまた早い。そもそもの話、バターイエローなどは、非現実的な量を摂取しない限り深刻な発がん性は認められない。医学的にみれば滑稽な騒動だ。がんを恐れるあまり、おかしな煽動にひょいと乗ってしまうのだろう。情報の真贋を見極めることが何よりも重要なのだが、そう理知的になれないのは国民性だろうか。
 福島の原発事故以来、放射線の健康被害が問題になっている。唯一の被爆国民が、いま再び原子力の脅威の只中にある。放射線の発がん性は疑う余地がない。だが、低線量の被曝が与える健康への影響は、必ずしも明確ではない。いつ、どれくらいの確率で発がんするかについて、「こうだ」というはっきりした答えが出せるほどの研究成果がないのが実情だ。
 情報がないから、国民の不安は一層高まる。政府はただ闇雲に「逃げろ、避難せよ」と繰り返すばかり。しかも避難の根拠が、事故原発からの距離・・・