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連載

本に遇う 連載140

今も昔も政治は不作
河谷史夫

2011年8月号

 傾いた家でテレビを見ていたら粗末な朝食を家族が囲んでいる。
妻の樋口可南子がぽつんと言う。
「お国とかお上とかは、私たちのことなんか考えてくれてないんだから、こうやって、みんなで頑張るしかないんだよ」
 夫の串田和美が応じる。
「そりゃそうさな。お国だとかエライ人は信用できねえで」
 ―NHK朝のドラマ「おひさま」だが、時あたかも松本龍復興担当相が就任九日にして辞めたころであったから、ごたごた続きの菅内閣のことを諷しているのかと錯覚しかけた。場面は戦が終わり、これから一家が必死に戦後の混乱に立ち向かおうとする一九四五年暮れのころであった。
 六十六年後の今、敗戦にも比せられる大震災後、速やかな立て直しを図るべきときなのに政治がどうしようもない。「お国」など当てにならないと被災民が言い合っていておかしくないのである。
 政治家の無能には慣れっこだが、それにしても何たる体たらくであろう。「孫」は知らなかったが、「祖父」の松本治一郎なら知っている。水平社運動の先頭に立ち続けた「部落解放の父」である。部落解放全国委員会の初・・・