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欧州を覆い始めた「電力不安」

原発大国フランスに頼れぬ事情

2011年9月号

 ドイツ、イタリアが「脱原発」に踏み出したことは既に旧聞に属するだろう。そしてドイツは風力発電など、「再生可能エネルギー」による代替を計画している。  しかし、欧州全体の電力網を一つの大きな回路と考えた場合、そこに大量の再生可能エネルギーを導入するためのインフラはまだ整っていない。課題は、スマート・グリッドの普及だけではない。「環境先進」という欧州のイメージとは乖離した現実も存在する。欧州、特にドイツに端を発する電力不足が危惧されている。

脆弱な「送電網」

 今年の春、スコットランドで、一見ささやかではあるが今後の欧州電力事情を語る上で重要な事件が起きた。四月五日から六日にかけて、この地域を襲った暴風雨により、風力発電と水力発電による電力が需要量をオーバーし、供給過剰の状態になった。それだけなら問題はなかったが、風力の発電量を抑えるために、タービンを停止するのに九十万ポンド(約一億一千四百万円)もかかったのだ。  本来であれば、余剰電力はイングランドに送られることになっていたが、それができなかった。送電会社「ナショナル・グリッド」の広報官はこう語る・・・