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社会・文化

愛山渓「紅葉」賛歌

日本で一番早い秋の彩り

2011年9月号

 北海道の中央高地・大雪山系の秋は、足元の小さな一点から始まる。八月初旬、下界では猛暑だ、真夏日だと言っているとき、高山帯の岩礫の間に育つ小さなウラシマツツジの群落で、気の早い一枚の葉がひとり、鮮紅色に色づく。  緑の中の紅一点はやがて、日を追うごとに仲間を増やし続け、九月を迎えるころには遠くからでもそれと分かる、赤いカーペットが斜面を彩る。見渡せば眼下の樹海も、針葉樹に混じって点在する広葉樹の葉の色が、心なしか淡くなっていることに気づく。  いくつもある大雪山系の登山口で、季節の移ろいと一歩ずつ踏みしめて登る高度感を最も味わえるのは、上川町の愛山渓ルートだろう。国道39号から分岐して安足間川沿いの山道をおよそ二十キロ。岩の間に水しぶきを上げる清流を、木の葉越しに見ながら車で進むと、登山口の愛山渓温泉に着く。  温泉は明治後期に発見され、石北本線の安足間駅が入り口にあるため、大雪山登山口としては最も早くから開けた。その後、黒岳(層雲峡)、旭岳(勇駒別)の両ロープウェイが開業したため、今では主要ルートからはずれ、静かな山歩きを楽しむことができる。

ひときわ鮮やかな赤

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