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WORLD

《世界のキーパーソン》ムスタファ・モハメド・アブドルジャリル(リビア国民評議会議長)

混迷リビアの舵取り担う元法相

2011年9月号

 


 長年仕えたボスと決別する葛藤は、古今東西共通である。半年に及んだリビア内戦では、信念、欲得や報復の恐怖が交錯する人間ドラマを、世界が幾度も目撃した。

 新政権の受け皿・国民評議会、または「移行暫定政府」を率いるアブドルジャリルは、法相だった。反政府派を説得せよとカダフィにベンガジ行を命じられ、体制側の過剰な暴力に憤って反政府派に加わった。怒り狂ったカダフィはただちに、その首に日本円換算で数千万円の懸賞金をかけた。

 ただ、この人物は「にわか民主派」とは違った。一九五二年に、リビア第四の都市でリビア王家揺籃の地バイダで生まれ、大学で法学、イスラム法を習得し、裁判官になった。独裁下の裁判所にあって、法と正義を守ろうとする気骨を見せた。折から、国の最上層部で、カダフィの息子、セイフルイスラムが後継を視野に「改革派」の旗を掲げていたため、異色の判事は二〇〇七年、法相に任じられた。

 法相時代は、残虐さで悪名高い治安警察や内務省に抵抗し、法的根拠のない政治犯の逮捕や長期の拘束に、公然・・・