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イスラエルを揺るがす「市民デモ」

国家の危機招く「ユダヤの春」

2011年10月号

中東の軍事大国イスラエルが市民による大規模な抗議デモに揺れている。九月三日には人口約七百五十五万人のこの小国で、空前の約四十五万人が街頭に繰り出し、政権を驚かせた。周辺を敵国に囲まれたイスラエルでは従来、安全保障こそが国民を結束させる唯一無二のテーマだったが、今回は生活費高騰への不満が原動力で、極めて異例だ。近年はテロが激減して経済も好調なだけに、一連のデモを「軍事一辺倒から社会保障などを重視する『普通の国』に変わり始めた証左」と見る向きもあるが、歴史的、社会的に特異なイスラエルにそれは容易でない。「普通」になるということはこの国にとっては「自壊」を意味するからだ。

深刻な格差社会

社会正義の実現―。一連の抗議デモのスローガンだ。参加者は中・低所得者が中心で、周辺国で吹き荒れる民主化要求運動「アラブの春」に触発されたといい、七月中旬以降、テルアビブやエルサレムなどの主要都市にテント村を設営して、毎週土曜日の夜に抗議活動を繰り広げてきた。   発端は、国産チーズの値上げに対する反発だった。六月半ば、価格高騰に腹を立てた市民らが不買運動を始めると、わず・・・