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WORLD

《世界のキーパーソン》ヴォルフガング・ショイブレ(ドイツ財務相)

ユーロ防衛「最後の砦」の守護者

2011年12月号

 欧州連合(EU)の財務相会議に車椅子で入場すると、その場の会話が止まる。口を開けばみなが聞き入り、話を遮る者はいない。メルケル首相の閣議でも、キリスト教民主同盟(CDU)の会議でもそれは同じだ。ドイツ内閣最年長(六十九歳)の大ベテランは、瞬時に室内の雰囲気を変えてしまう、現在の欧州には極めてまれな重量級政治家である。


 三十歳で西独下院に初当選。首相がヴィリー・ブラントの時だ。それから十二年を経て、ヘルムート・コールが首相に就任した後から、ドイツ現代史の決定的瞬間に立ち会ってきた。コールの首相府長官として、東西冷戦最後の時期の両独関係を切り盛り。一九八九年四月に内相に起用されると、その年のベルリンの壁崩壊、翌年のドイツ統合では、コール首相、ゲンシャー外相とともに、新しい「ベルリン共和国」の礎石を作った。

 悲劇が襲ったのは、統合実現から九日後。遊説中に、銃を持った精神病者から三発、撃たれた。三カ月後に復帰したが、以後、車・・・