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政治

「内閣情報調査室」解体のすすめ

世界最低の「情報機関」

2011年12月号公開

内閣情報調査室の朝は早い。四時、担当の調査官たちが出勤し、毎朝繰り返される「情報収集作業」に取り掛かる。届けられた新聞各紙をスクラップし、その後NHKのニュースをチェックする。主に政局分析に関する部分をまとめ、「冊子にして首相官邸の各部屋に配布」(大手紙政治部記者)するのだ。公安調査庁関係者が語る。

「『日本版CIA』云々などというのはお笑い草。内調は自前の情報収集能力など持たず、国内、それも永田町近辺の『御用聞き』に終始している」

国内政治情報収集に終始


 内調は総務、国内、国際、経済の各部門に分かれており、ここに警察、公安調査、外務など各省庁からの出向者が集う。「内調プロパー」の調査官もいるが、主力は警察公安と公安調査庁からの出向組だ。最重要部門と位置付けられている国内部門の「職場」は、官邸に程近い民間のビルに入居している。

 内調の長は、内閣情報官である植松信一である。二〇一〇年四月に大阪府警察本部長から鳴り物入りで就任した植松は、警視庁公安部長や副総監を経験したキャリアだ。そして現在、このトップが、政治情報の収集に明け暮れている。民主党議員の一人が語る。

「自ら新聞社政治部幹部と接触している。また、調査官たちに命じて民主党幹部や閣僚の番記者メモを集め官邸に注進している」
 就任直後に鳩山由紀夫が首相の座を退き、菅直人が官邸の主になってからは、小沢グループの動向が「植松内調」の最大の関心事だった。調査官らはしきりに民主党内の情勢を探り、「誰と誰が会った」という話を集めていた。六月の菅内閣不信任決議案提出や、八月の民主党代表選での票読み、造反者の動向を探っていたのである。

 一週間の中で、内調調査官の緊張が高まるのは月曜日から火曜日だ。週の頭は「週刊文春」「週刊新潮」の締め切りである。内調関係者が語る。

「二誌の内容をいち早く入手しようと情報集めに躍起になる」
 しかし、仮に動きをキャッチできたところで潰せるわけではなく、水曜日あたりになって、記事コピーを永田町各所に配るのが関の山だ。

「多忙」な日中業務を終えた調査官は、夕刻になると「最重要任務」のために三々五々、街に出る。前出内調関係者が語る。
「与野党情報を集めるために、官邸キャップや野党キャップを赤坂辺りの比較的高級な料理店でもてなす。メモはここで入手する」

 記事にならない番記者メモに重要性はない。つまり、内調の行っている作業は、新聞にせよ雑誌にせよ最終的に「オープン」になる情報の収集がメーンなのだ。

「植松体制」下で、国内の政治情報収集は強化されている。野田佳彦政権の組閣でも、内調情報が「活かされた」。「有力候補」としていち早く報じられた旧民社党系の衆議院議員、城島光力の入閣が見送られた件である。前出民主党議員が語る。

「城島が記者に『入閣は間違いない』と触れ回っていることが内調から、官邸や党幹部に報告された」

 これが言論統制に躍起である民主党幹事長輿石東の耳に入った。結果として、口の軽さを咎められる形で、入閣できなかったばかりか、幹事長代理として輿石の監視下に置かれているという。

 野田政権発足後、元代表の小沢一郎が自身の裁判で政局に手が回らないこともあり、内調は「野党シフト」を敷いている。最近ではマルチ商法との関わりを追及されている国家公安委員長の山岡賢次に関して自民党が持つ情報や、「問責決議案提出」に公明党が同調するかどうかに探りを入れた。前出民主党議員はこう呆れる。

「十一月に入ってから毎日のように『近く問責決議が出ます』という報告が上がっていた。『狼少年』と一緒だよ」
 植松は「地方情勢分析」も打ち出す。大手紙政治部デスクが語る。

「鳩山内閣が沖縄で躓いたことがきっかけ。都道府県レベルの地方選挙の情勢を把握するように指示が飛んでいる」
 しかし実情はお粗末で、全国を「東北」「九州」などのブロックに区分けして「調査官を一人ずつ担当にしている」(内調OB)に過ぎない。調査官は現地に飛び、「地元新聞社の県政担当幹部に会う程度」(同前)で、結局は永田町と同様に酒食に終始している。

 十一月の福島県議選は、「政権批判のリトマス試験紙」として官邸が注視していたが、「フタを開ければ、民主・自民現職議員の落選も、共産党の議席獲得も全く読めていなかった」(官邸関係者)。

「政権が直轄する情報機関としては世界最低」(大手紙社会部記者)といわれても仕方ない。

機能不全部門は解体せよ


 地方選レベルの情勢分析は、各警察も行っている。警察情報は「比較的精度が高いが、内調には上がらない」(前出政治部記者)。

 警察庁が情報を出さないだけでなく、都道府県警から出向している内調職員もまた、永田町で集めた情報のうち、「重要と判断したものを内調で上げずに出向元に送る」(同前)。とはいっても、地方警察出身者はいまだに「共産党の動向をしきりと知りたがる」(別の政治部記者)レベルなので、「重要情報」と呼ばれるものの内容も推して知るべしだ。

 各省庁は「習性」として情報を抱え込む。国内だけでなく外事情報も同様だ。民主党関係者が語る。

「最近韓国で報じられた拉致被害者生存情報も、外務省は一年以上前から把握していたのに、内調はノーマークだったと聞いている」

 今年二月、「週刊新潮」は、朝日新聞編集委員の星浩が内調関連の講演で、「池田大作脳梗塞説」を開陳したとの記事を掲載した。真偽はともかく、内部情報が漏れる情報機関など意味をなさない。

 しかし実際には、永田町を中心として真偽不明の「内調情報」なるものが駆け巡っている。日々、調査官たちが「接待」している記者などが、「バーター」として受け取るのだ。

 ちなみに、現場記者からの情報収集に際して「基本的に金銭の授受はない」(内調関係者)。しかし、「内調の講演に呼ばれた記者やジャーナリストに相応の『お車代』が渡されているというのは永田町記者の共通認識」(前出政治部記者)だという。こうした「接待」の原資は内閣官房機密費(報償費)だ。フリージャーナリストの一人はこう語る。

「接待を受け、内調情報なる怪しげなものをありがたがる記者側にも問題がある」

 内調は、永田町を徘徊し、情報をひっ掻きまわすだけの存在だ。近年の政治混乱の一因でさえある。情報機関を統合することは必要だが、内調がその任に堪えないのは明らかである。この国の病理である「インテリジェンス能力の欠如」を解決する第一歩は、機能不全の内調の解体から始まる。 (敬称略)


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