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連載

皇室の風 40

出雲国造の神賀詞
岩井克己

2011年12月号

 


鳳凰の間。皇居・宮殿の北側にある天皇の執務棟「表御座所」の一室であり、「節折の儀」(天皇のお祓い)や、紀宮清子内親王の結婚、秋篠宮眞子内親王の成年の際の内輪のあいさつなど非公式の儀式や行事を行う部屋だ。

 平成十四年(二〇〇二年)九月五日午前十時半、この鳳凰の間で天皇と出雲国造(出雲大社宮司)千家尊祐とが対面した。

 昭和二十二年(一九四七年)から半世紀以上も宮司を務めた父の第八十三代尊祀がこの年四月十七日死去し、尊祐が第八十四代として後を継いだ。片や百二十五代、片や八十四代もの男系血統をつないできたとされる旧家の当主同士の対面だが、尊祐の宮司就任あいさつという非公式なものとして一切発表されず、世にほとんど知られていない。

 戦後、宗教性から距離を置くことを求められる「象徴天皇制」と「伝統」との狭間でのぎりぎりの対処だったのだろう。

 しかし、出雲大社側にとっては、古代から世継ぎの際に宮中に出向いて行った「出雲国造神賀詞」奏上という意味があった。出雲の国・・・