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連載

追想 バテレンの世紀 連載72

マードレ号沈没
渡辺 京二

2012年3月号

 ペッソアはマカオでの一件について、自分の措置の正当さを信じていたが、家康に一応の申し開きをした方がよいと考えた。しかし、長崎奉行長谷川左兵衛が、家康の怒りを招きかねぬのでその件は伏せておくべきだと言うので、それに従って、恒例の使節には、マカオへ日本人が来ることを禁ずるよう請願せよと命じるにとどめた。

 使節は一六〇九年八月、莫大な贈物を携えて駿府に赴き、家康から、日本人がマカオへ赴いて迷惑をかけるとのことゆえ、マカオ渡航を禁ずる、違反者があれば当地で処断してよろしいという朱印状をえた。

 実は、左兵衛はこれを機に、マードレ号が舶来した貨物を、自分の裁量のもとに置くつもりだった。マカオからの定航船は長崎に入港すると、舶載した生糸の目録を自主的に提出し、長崎奉行・日本人商人と、一括販売する価格を交渉・決定する。日本人商人は奉行が各々に割り当てた量の生糸を、定航船に赴いて受け取るのである。

 ところが左兵衛は今回に限って、マードレ号が入港するやただちに役人を船に送って、すべての商品の目録を作らせようとした。ペッソアは従・・・