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連載

追想 バテレンの世紀 連載73

ロドリゴの策略
渡辺 京二

2012年4月号

 フィリピン臨時総督ロドリゴ・デ・ビベロは任を終えて、メキシコ(ヌエバ・エスパニア)へ帰るべくサン・フランシスコ号に乗り、僚船二隻とマニラを発ったが、悪天候に悩まされ、一六〇九年九月三〇日に、上総国岩和田付近で船は座礁して沈没し、乗員三五〇のうち三〇〇が救われた。

 大多喜城主本多忠朝は彼らを厚遇し、ひと月以上扶養した。ロドリゴは江戸へ赴いて将軍秀忠に謁し、一〇月二九日には駿府で大御所家康にまみえた。彼は遭難者として御礼を言上したのだから、それで事は終ったようなものだが、家康から望むところがあれば何なりと申せと言われたものだから、俄かにスペインの外交使節のような気分になり、本多正純を通じて三カ条の要望を提出した。

 第一条は日本在住の修道会員の厚遇を求め、第二条はスペイン・ポルトガル国王フェリペ三世との友好を願うもので、これは問題なく承認された。問題は第三条で、ロドリゴは二カ月前にオランダ使節が駿府で家康から通商を許されたことを聞知したに違いなく、彼らはフェリペ三世への反逆者であり、かつ海賊であるから日本から追放してほしいと要望した。家・・・