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連載

不運の名選手たち19

五十嵐冬樹(競馬騎手)「ラフ」の烙印を押されて 
中村計

2012年5月号

 事の真相をこう明かす。

「内側から当てられて、(驚いて)馬が頭を上げた瞬間に、ハミ受けが外れちゃったんです」
 ハミ受けとは馬を制御するために口にかませる鉄製の棒のことだ。

 二〇〇八年十月五日、JRA(日本中央競馬会)主催の札幌競馬の第六レース。ホッカイドウ競馬所属の五十嵐冬樹が乗っていたキタサンユキ号は、第四コーナーで急に外側によろけた。そのため後続馬と接触し、三頭の落馬というアクシデントにつながった。

「落ちたジョッキーも『内から寄られてたから、しょうがねえよな』って言ってくれたのに……」
 映像で確認する限り、五十嵐の言葉に嘘はなさそうだ。それでも五十嵐は、レース後、JRAから四日間の騎乗停止を言い渡された。その決定に納得のいかなかった五十嵐は、裁決委員に対し怒りを爆発させてしまった。

「これまでも、ぜんぜん悪くないのに謝ったこともある。でも、あのときだけは我慢できなかった。大人げないとは思いますけど、ちょっと暴れちゃいましたね」
・・・