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社会・文化

「科学者」を過信するな

牧野賢治(日本科学技術ジャーナリスト会議理事)

2012年6月号

 ――科学は信頼できるものですか。
 牧野 科学も人の営みだ。「科学者」という人間が介在する以上、全面的に信頼できるものではない。十六世紀後半以降の近代科学の歴史をみても、科学者が間違った情報を発信した例や、捏造や実験における恣意的なデータ使用といったケースはたくさん存在する。こうした研究上の「欺瞞」は、科学が成立して以降今日まで、内包されている問題だ。また、最近では、地球温暖化といった環境問題などの分野で科学を政治的に「悪用」する例もある。

 ――科学には、第三者による論文査読や追試といった検証機能があります。
 牧野 たとえば、一番わかりやすい実験データの捏造や偽造が、一九八〇年代に米国で深刻な問題となった。議会でも取り上げられたが、科学者側は「一部の不心得者がやったこと」と当初は、深刻に捉えなかった。背景には科学の「自己検証機能」への過信があった。たとえ捏造があっても、追試により間違いを発見できるという主張だ。しかし実際には、追試には試料の入手などの困難があり、実施することは容易では・・・