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連載

皇室の風46

バッキンガムの小さな椅子
岩井克己

2012年6月号

 エリザベス英女王の在位六十年式典に天皇・皇后が出席した。天皇が強く希望し、心臓手術後わずか三カ月という病後を押して実現した。華やかな王室絵巻の映像を見ていて、一九九八年五月に国賓として訪英した天皇・皇后に同行取材した時のことを思い出した。

 壮麗なページェントに立ち会える―そのことが宮廷記者の醍醐味ではなく、その陰に潜む数多の人間の「歴史」に触れることこそそれだと知ったのはこの時だ。

 きらびやかなホースガーズ(近衛騎兵)の歓迎式典やバッキンガム宮殿での晩餐会という肝心のメーンイベントは全く取材できなかった。英国王室の報道規制は日本の皇室よりはるかに厳しく、モニター画面や関係者のブリーフィングで取材するしかなかった。事前に日本の外務省や宮内庁を通じて懸命に交渉したが、堅い扉はびくともしなかった。

 ようやく許されたのは晩餐会場の下見だけだった。「皇居では認められている」と頑張って、当日の五月二十六日、特例扱いでバッキンガム宮殿内に入った。

 過去に欧州やアラブ諸国の王宮内で取材した経験もあるが、バ・・・