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WORLD

《世界のキーパーソン》イフティカル・チョードリー(パキスタン最高裁長官)

パキスタン政争の行方を左右する

2012年7月号

「正義の味方」がまたやった。二〇〇九年のムシャラフ前大統領辞任に道を開いた最高裁判所長官が、今度は現職首相のギラニを失職させた。〇五年にムシャラフから長官に任命されて以後七年間、長官は常にパキスタン政争の真ん中にいる。次の標的はもちろん、ザルダリ大統領。今や「パキスタンは軍、政府、最高裁の三権分立」(同国記者)と言われるほどだ。

 すべては、ムシャラフ時代に始まった。ムシャラフは〇七年三月、自分に歯向かう長官を、ラワルピンディーの陸軍司令部に呼び出し、将軍たちの前で辞任を迫った。この脅迫に耐えると、大統領は停職処分にした。大統領と将軍たちに屈しなかった長官は、民衆の英雄になり、抗議デモが起きた。先頭に立ったスーツ、ネクタイ姿の法律家たちが、警官隊に血まみれにされる映像は、「反ムシャラフ」機運を高めた。やがて大統領は辞任し、長官は復職した。法廷で人生の大半を送ってきた地味な男は、パキスタンで最も尊敬される人物になった。

 復職後は、まさに人間が変わり、政治家、有力経済人、さらに国の最強機関である軍までも相手取って、汚職まみれのこの国で、「正義の・・・