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連載

追想 バテレンの世紀 連載76

常長とソテロの航海
渡辺 京二

2012年7月号

 政宗は当初、メキシコとの通商のため派船するつもりで、それ以上のことを考えてはいなかった。ところが造船が進んだ段階で、ソテロがスペイン国王とローマ教皇への使節を派遣すべきだと言い出した。そうしないなら自分は手を引くし、乗船しないというのだ。彼は日本司教がイエズス会に独占されているのが不満で、伊達領内にフランシスコ会の地盤を築き、自分が日本司教になるつもりだった。そのためには、政宗の使節をローマまで導かねばならない。

 政宗は当惑したに違いないが、結局ソテロの強請を受けいれた。その後駿府まで行っているから、この件について家康の諒承もとりつけたと思われる。前年の禁教令は幕府領に留まるものだったから、仙台に宣教師を置くことはできる。しかし、自領をフランシスコ会の地盤とさせるほど肩入れせねばならぬ義理は、彼には毛頭なかった。ただ、ソテロの要請を飲まねばメキシコ派船はうまく行かぬと信じたらしい。そこが怪僧ソテロの手腕である。

 メキシコへの使節にはすでに二人の家臣が選んであった。この二人はもともと座礁したサン・セバスティアン号に乗ってメキシコへ行くはず・・・