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社会・文化

北端の離島の「短い夏」

独特の生態系の利尻・礼文

2012年7月号

 短い夏、北の島はしばしにぎわう。フェリーや高速船が着くたび、屈託のない軽装の観光客が降り立ち、潮風とカモメの鳴き声に迎えられる。  人が住む北端の島、礼文島は「花の浮島」と呼ばれる。レブンコザクラ、レブンウスユキソウ、レブンアツモリソウなど、「礼文」を冠したあでやかな花々が咲き乱れる。北海道本土と海で隔てられた遺伝子が、特異な気候風土に合わせた進化の道を歩き始めているのだろう。  低い草丈に大ぶりの花をつけるその姿は、どこか高山植物を思わせる。実は高山帯と同種や近縁の植物が、海岸線から分布している。遅い雪解け、強い浜風、頻繁に押し寄せる濃霧。半袖でも暑いかと思うと、ストーブが必要な十度前後まで下がる、めまぐるしい気象が高山帯と似た環境をつくり出している。  霧の日、丘の花道をたどれば、標高二千メートル級の花畑を歩いているような錯覚に襲われる。流れる霧が体を冷え込ませ、草の葉をみるみる濡らしてゆく。花は閉じたり、下を向いて寒さをやりすごす。クモの巣が、水滴の多角形を空中に描き出す。崖下から響いてくる潮騒が、島であることを思い出させる。

隠れた「名水」

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