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連載

追想 バテレンの世紀 連載78

日英国交の開始
渡辺 京二

2012年9月号

 セーリスは会社から、日本ではアダムズの力を借りよと指令されていたので、入港直後アダムズ宛に、平戸へ至急来てくれるよう依頼する手紙を書いた。手紙は平戸藩の使者に託されたが、行き違いがあってアダムズの許に届くのが遅れ、彼が平戸に着いたのはやっと七月二九日、セーリスは五〇日近くも待たされたのである。

 セーリスはこの間、平戸の両王(鎮信と隆信)や重臣と親交を重ねた。手厚い贈物をしたのはいうまでもない。老王(鎮信)はセーリスが気に入ったらしくてたびたび訪問し、その都度女芸人たちを伴った。彼女らは島から島へとめぐって芝居を打つのだが、むろん売春もする。セーリスは日本では高位の者が、この種の婦女を身辺にはべらせることを、何ら恥としないことを知った。

 七月二五日はジェームズ一世の即位記念日だったので、クローヴ号は祝砲を放った。セーリスが老王を訪ねると、立派な甲冑をとり出し、これは朝鮮の戦役で着用したので愛着があるのだが、今日の記念のためにと言ってセーリスに与えた。殊遇というべきだろう。鎮信の対英貿易への期待、もって知るべしだ。

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