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社会・文化

人気衰えぬ「グレン・グールド」

没後三十年で「独り勝ち」のピアニスト

2012年11月号

 カナダの鬼才、グレン・グールド逝って三十年。それを記念して、欧米、日本の音楽雑誌はこぞって彼の特集を組み、版権を持つソニー・ミュージックエンタテインメントはグールドの主立った録音を何度目かのお色直しで大々的に再発売し、都内の大型CD店では、あたかも今が盛りのピアニストのごとく、グールドのCDジャケットが咲き乱れ、テレビのモニターには彼の弾く『ゴルトベルク変奏曲』の映像が流れている。  グールド人気、いまだ衰えず。もちろん、この「大キャンペーン」が深刻なCD不況に喘ぐレコード会社の営業戦略の一環なのは明らかだ。しかし、一九六〇年代、七〇年代の青春期をグールドとともに過ごした人から、生まれた時にはグールドはすでに泉下の人だったという若い世代まで、世界中で数限りない人々が、いまなお彼に魅せられていることは事実である。  グールドの何がこれほど人を惹きつけるのだろう。「決まっているじゃないか」とどこからか声がする。「ノン・レガートを基調にした誰にも真似のできない奏法、聴いた瞬間にグールドとわかる独特の音作り、卓越した技術、豊饒な響きよりも音楽の線的な構造を重んじる姿勢、因襲を否定・・・