三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

皇室の風56

女王退位と白菊の花
岩井克己

2013年4月号

オランダのベアトリクス女王(七十五歳)が四月三十日に退位し長男のアレクサンダー王太子(四十五歳)に譲位する。
 
 オランダと日本の間に残る第二次世界大戦の傷跡と向き合い和解に努めた。天皇にとっても、ベルギーの故ボードワン前国王、英国のエリザベス女王らと同様に同じ「戦中派」世代でもあり、感慨ひとしおだろう。
 
 日本とは鎖国時代も含め四百年以上の交流が続くオランダだが、一方で第二次大戦で日本軍の蘭領東インド(インドネシア)への進攻に伴い捕虜や慰安婦とされた軍民の生存者も多い。
 
 戦後、戦犯裁判や戦後賠償交渉を経て平和条約が結ばれ、経済交流を始め良好な関係が定着したと思われていた。しかし、欧州でも最も強いわだかまりが根強く残ることは、多くの日本人が昭和四十六年の昭和天皇の訪欧で初めて思い知らされた。
 
 昭和天皇が記念植樹した苗は一夜にして引き抜かれ、車列が通る沿道からは「戦争犯罪人ヒロヒト」に抗議する人々から卵や瓶が投げつけられ、車の窓ガラスにヒビが入った。

 戦時中、収容所に・・・