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連載

不運の名選手たち40

鈴衛祐規(プロ野球選手) プロ十一年「幻」の捕手
中村計

2013年4月号

 あとほんの十数メートルだった。
 次の次。現在、阪神のブルペン捕手を務める鈴衛佑規は、そこにたどり着くまでに十年かかった。
「すごく調子がよかったので、打てそうな気がしていた」

 二〇〇五年九月十四日、広島対ヤクルト戦。六点を追う広島は、九回表の攻撃を迎えていた。一死一塁で、打席には九番打者が立っていた。もし、もう一人走者が出れば、鈴衛は二番打者のところで代打として初めて一軍の打席に立てるはずだった。

 ところが―。
「九番バッターのダブルプレーで試合が終わっちゃったんです……。打席の目の前まできてるのに。やっぱり、一度くらいは打席に立ちたかったですね」

 鈴衛は一九九六年、兵庫県立伊丹西高校から広島にドラフト六位で入団した。高校時代の恩師、北田善宏が振り返る。
「スカウトの方は、鈴衛が一年生のときから、いい捕手やなと思っていたようです。三年生になったとき、投手がいなくて、春の練習試合で彼に急遽放らせた。そうしたら完封して。それでピッチャーにしたんです・・・