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社会・文化

去りゆく 東京クヮルテット

世界を風靡した異色の弦楽四重奏団

2013年6月号

 この七月、世界に冠たるひとつの弦楽四重奏団がその活動の幕を閉じる。ニューヨークを拠点に世界中で演奏活動を行い、現在はフランスのレーベルからCDをインターナショナルリリースしている弦楽四重奏団、東京クヮルテット(Tokyo String Quartet 以下東京Q)である。  東京Qは日本で誕生したわけではない。確かに創設メンバーは世に名高い齋藤秀雄の教育システムで育った戦後っ子たちだ。だが桐朋学園大学時代の弦楽四重奏活動は、あくまでも学生時代の教育科目。それぞれアメリカに渡り、地方のオーケストラで団員として働き学費を貯め、ジュリアード音楽院に入学。ニューヨークで結成した団体である。「TOKYO」という名も、コンクール応募書類に団体名が必要で、全員が日本人だからと付けただけである。 常識を超えた音楽  二十世紀前半までの中央ヨーロッパで常識とされる室内楽とは、「異なった意見の音楽家が楽譜を素材に交わす対話」だった。特殊な例外を除き、演奏者が自分で楽しむための音楽で、上手さを比べるコンクールというシステムには最も馴染まないジャンルである。ソリストなら異文化から・・・