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連載

不運の名選手たち42

荘林幸輝(ボートレーサー ) 十三億円を稼いだ「無冠の帝王」
中村計

2013年6月号

 水しぶきが上がったら突っ込まない―。

 それがボートレーサー荘林幸輝の信条だった。

「あとからVTRを見たら十回中九回はなんでもない。でも百回に一回、千回に一回の確率でもぶつかる可能性があったら行かない」

 公営競技の一つ、ボートレースは六艇で一周六百メートルのコースを三周し順位を競う。ボートは一度トップに立つと圧倒的に有利だ。後続は自艇が起こす引き波を越えなければならず、そこでスピードが落ちてしまうからだ。

 そのため六艇は一周目の第一コーナーにほぼすべてをかける。六艇が全速力で一斉にU字ターンを決める様はボートレースの最大の見せ場だ。ボート同士が接触することも珍しくなく、それゆえ「水上の格闘技」とも称される。しかし同時にもっとも事故発生率の高い「魔の時間帯」でもある。

「ほんのちょっとのことでもすごい水しぶきが上がることがある。でも前の状況が見えれば行くけど、見えなかったら絶対に入らない」

 しぶきの向こう側で旋回し損ねたボートが停止あるいは転覆して・・・