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連載

続・不養生のすすめ33

幻の長寿地域
柴田 博

2013年9月号

 不味いものを食べて一生懸命働くことが長寿への道であるという思い込みを筆者は“粗食長寿説”と呼んでいる。この思い込みは、多くの人々の中に根を下ろしている。したがって、どんな形であれ、粗食と長寿を結びつけた本はベストセラーとなる。先月号で紹介したように、筆者の肉を勧める本の百倍も、同時期に出された肉を禁止する本が売れるのはそのためである。売れ行きの差をもたらしたかもしれない本の書き方の巧拙は、今回は捨象させていただく。

 筆者は目下、「粗食長寿説の系譜」という講演のための資料を整理しているところである。先月号で述べた日本における食肉タブーも大きなインパクトを与えてきた。同時に、根拠を失ってしまった幻の長寿地域への憧憬も粗食長寿説に一役買っている。

 先日、あるテレビで亡霊のように幻の長寿地域である山梨県棡原地区が登場し、驚いたところである。もうこの地区への幻想は消失していると信じていたので驚きもひとしおであった。

 この棡原地区は、近藤正二東北大学名誉教授が一九七二年に、全人口に占める七十歳以上の人・・・